目次
1現代風俗帳
- 1-1
- 皇居前広場
- 1-2
- ストリップ・ショウ
- 1-3
- 競輪
2私の東京
- 2-1
- マドモアゼル五月
- 2-2
- 三十間堀
- 2-3
- 不忍池
- 2-4
- 夜間野球
- 2-5
- 両国界隈
- 2-6
- うつしゑ
- 2-7
- 名人会
- 2-8
- 酉のまち・歳の市
- 2-9
- クリスマス
- 2-10
- 忘れられた側面
- 2-11
- 浅草新景
3?東襍記
- 3-1
- ?東新景
- 3-2
- ?東餘話
- 3-3
- 玉の井の窓
- 3-4
- その頃
4美人變遷史
- 4-0
- 美人變遷史
5ハイカラ考
- 5-1
- ハイカラといふこと
- 5-2
- モダンということ
- 5-3
- 猿真似
- 5-4
- アロハしやつ
6幕間
- 6-1
- 役者の顔
- 6-2
- 幸四郎丈逝く
- 6-3
- 六代目追憶
- 6-4
- 菊五郎の芝居に装置をした時
- 6-5
- 菊五郎・三津五郎・嘉美
- 6-6
- 牡丹燈籠
- 6-7
- 近ごろの舞台装置
- 6-8
- 歌舞伎改名談義
7貴塵館記
- 7-1
- 星移る
- 7-2
- 葉越しの月
- 7-3
- 風
- 7-4
- 秋來
- 7-5
- 秋祭り
- 7-6
- 逆
- 7-7
- 私の温泉
- 7-8
- 塾
- 7-9
- 猫の死
- 7-10
- ソップ
- 7-11
- ラマ佛
- 7-12
- 白足袋
- 7-13
- 顔
- 7-14
- 髷
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私の東京
クリスマス
クリスマス、一名「暮れ濟ます」などと昔は云つたものだが、今では暮れ濟ますどころの一時しのぎではなくなつた。
正月の松飾りを廃してクリスマス・トゥリーにしては? などと、笑談にしても、こんな意見が交はされるとのこと。ついこの間中の東條時代から見ると、右から左へ変つたものである。現在の左傾がこの傾きのまゝで将来にならうとも思はれないが、われわれコドモの頃には、もういくつねると御正月、と云つたものだつた。思へば年の暮れの大人的(おとなてき)慌忙が大晦日を一夜越すと、はつと変つてコドモ的な元日になるのが、全く待ち達しいものだつた。―あるひは今のコドモ達には、年のうちにすでにクリスマスが来るので、元日の「待望」はぼかされて了つてゐるものではないかと思ふ。
そこにどんな工合に日本的なものが段々ぼかされるか、薄められるかといふことは、一つの問題になるかもしれない。
僕が「クリスマス」を知つたのはいつ頃のことかははつきりしないけれども、小学校時代ではなく、クリスマスそのものよりも「クリスマス・カード」を先に知つた。これはその魅惑の新鮮に胸を躍らせたものだつた。恐らく中学校の低年時分に(十三、四歳)家兄を通じておぼえたものだつたらう。それから逆に、降誕祭のいはれを知つたのである。―しかしこのいはれは、余りぴんと来なかつだ。いふまでもなく僕の成人した家庭は基督教とは全然縁遠かつた。
それに僕は下町育ちだつた。もし山の手だつたとすれば、明治も四十年代には十五歳彼これだつた僕(日本人)は夙にクリスマスを知つてゐたことだらう。そしてその後、いまだに僕はさして「クリスマス」になじまない。クリスマスの、「面白かつた」のは一度大正年中に帝国ホテルのその日の夜会へ行つて見たことがある、その記億ぐらゐのもので。―この節町へ出て、到るところクリスマス・デコレーションの盛観を見ても、大して感動を起さないのは、そこにコドモの頃の思ひ出を伴はないためかと思ふ。「もういくつねれば」御正月の方がどうも親はしく娯しい。
(二五・一二・一九)